GrossBeatの概要
GrossBeat(グロスビート、以下GB)はmixierに挿して何やかんやするプラグイン。プリセットを選ぶと勝手に音が刻まれたりピッチが乱高下したりしてイイカンジにパターンのバリエーションが増やせる有能なやつです。
有能ではあるのだが、その正確な挙動を知るものは少ないです(ワイ調べ)。
プリセットをガチャガチャ切り替えながら演奏できるのでライブパフォーマンス向けな感じもありますが、普通にDTMでも欲しいところにピンポイントで刺さることがあります。
プリセットポチポチで問題ないのですが、いざ自分で触ろうとするとマジでなんも分からんのでこの記事ではGBの挙動をおさらいしていきましょう。
この記事はいつものゲーム記事ではなくDTMおじさんむけの記事になっています。
もくじ
参考リンク集
FLユーザーには多分お馴染み、Michaelニキのチュートリアル動画
公式のGBマニュアルページ www.image-line.com
時と音量を支配するプラグイン
GBは音の時間軸と音量をグラフを用いていじるプラグインである。
音量をいじるグラフについては簡単で、ボリュームのオートメーションを書くようなものと思っていい。理解が簡単なのでまずは音量グラフから見ていきます。
流石に音が無いとわかりづらいと思うので、すげー簡単な音を用意しました。
Cメジャーを8分で鳴らした後、Aマイナーを8分で鳴らす2小節の音です。これにGBをいろいろかけていこうと思います。
音量をいじる機能
ボリュームエンベロープ(グラフのこと)は1小節周期のボリュームオートメーションそのものです。イカしたプリセットがいっぱい入ってます。
例えばプリセットの 1 Beat Gate
は8分単位でボリューム最大と0を切り替えています。右端で1小節。なのでこれが1小節ごとにループすることになります。
実際、このグラフはFLのUIと全く同じ要領で書けますので以下のように斜め線や曲線も書けます。
マスターにGBをかけてるのでキックの音も小さくなっているのはひとまず置いておくとして。。。
表拍に4つ打ちが鳴ってる前提の単純なダッキングですがジッサイこれで十分な場合も多いです。僕も良く使っています。
こんな具合に、ボリューム操作がやっていることは基本これだけです。フェードインアウトなども一応これで書けることが出来ますね。
「時間」をいじる機能
GBをGBたらしめる機能ですが、時間を操作する、といわれても(少なくとも僕は)意味が分かりませんでした。見ていきましょう。
時間ジャンプ
タイムエンベロープは、ボリュームと同じく一小節単位で、現在の時間軸からどれだけ過去に遡っているかを表します。
もう少し正確な言い方をすると、グラフの任意の点は現在の時間軸と、再生している時間軸との差分を表す、ということになります。
例えばこの例では、2拍目に来た際に1拍戻ったところを再生し、そのまま続行せよという意味になります。
この時、再生される拍としては「1,1,2,3, 5,5,6,7」となり、4,8拍目は再生されることはありません。似たような簡単な例として
2拍目で1拍戻った後、3拍目で元の時間軸へ戻って再生を続ける「1,1,3,4, 5,5,7,8」
2拍目で1拍戻った後、3拍目で2拍戻る、つまり1拍目を再生し続ける「1,1,1,1, 5,5,5,5」といった記述がこんな感じになります。これを応用するとスタッター的なエフェクトがかけられますね。
3拍目の時点で1拍目までもどってその音で16beatしています。進んだ拍と同じ分だけ戻れば任意のタイミングで、任意の長さのスタッターが作れます。
バッファの再生
前述の「時間を戻す」の正確な挙動として、GBは内部に2小節分のバッファを持っておりGBを通過した音を2小節分記憶しています。
そして、グラフが縦に進むほどに、バッファの再生位置を後ろにずらしているという事になります。これはつまり、ド頭で過去に戻るとバッファが溜まるまで音が鳴らないことを示唆します。
例えばこの記述は「1拍目に4拍分過去を再生し、そのまま続行せよ」という意味になりますが、これを回すと最初の1小節分は無音になります(バッファに音が溜まってないからです)。
サンプル曲の長さを2倍にしたものを置いておきます。再生される拍としては最初の1小節が無音なので「-,-,-,-, 1,2,3,4, 5,6,7,8, 1,2,3,4」のようになり、2回目のAマイナーは再生されません。
ナナメ時間の話
さて、GBのグラフUIは実際のところFLのソレと全く同じなので、ナナメの直線や曲線も引けます。単純な拍やbeat単位のジャンプはまだわかりやすかったですが、この辺から混乱を生じまくるので見ていきましょう。
ナナメ上昇線(加速)
これは簡単に理解できます。以下のグラフを見てください。
読み方は全く一緒なので、このグラフは「2拍目で1拍目を再生し、3拍目には元の時間に戻れるように進め」という意味になります。つまり2拍目に倍速で1,2拍目が再生されます。
これはグラフの傾きが強ければ強いほど「より素早く所定の時間軸へ進め」という意味になりますので、より早回しになります。
例えばこれは「3拍目で2拍戻り、表拍で戻ってこい」という鬼畜指令を意味します。これを実現するためには16倍速が必要なのでこの区間は16倍速再生になります。
ナナメ下降線(減速)
前述の感覚でいえば下降線は減速再生であることが想像できますし、ジッサイそうなのですが状況は少しややこしいです。以下のグラフを見てください。
これは「2拍目の頭から1拍かけてさらに1拍過去へ進め」という意味になります。
意味が分かりませんのでもう少し読み解くと、2拍目から1拍かけて2拍目へ進めという意味になります。つまりこの1拍分時間が全く変わらないことになります。従ってGBはこの区間は無音と解釈します。グラフの縦横の拍数が一致する下りの傾きは無音というのを覚えましょう。
さて、前述の無音の理由が理解できれば、以下のグラフは比較的読みやすいはずです。
これは「2拍目の頭から2拍かけて1拍過去まで進み、そのまま続行せよ」という意味になります。
こちらも少し読み解きますと、2拍目から2拍かけて2拍目を再生して続行、ということになります。つまり1/2速再生になります。
こちらは「3拍目の頭から1拍かけて3拍過去へ進め」という意味になります。3拍目終了時点で1拍目に戻っていろという事なのですがこれを実現するには2倍速で再生しながら時を戻す、つまり倍速逆再生が発動します。
このように下降グラフは傾き度合いによって3つの効果が発動するのでややこしいです。
これはつまり、傾きが急であるほど減速が強くなり、場合によっては速度ゼロ、あるいはマイナスへ突入し逆再生になる、と考えることが出来ます。減速系は結構いいアクセントになる事が多いと感じていますので、プリセットを微調整する際などに思い出してみてください。
UIまわり
ミキサー
TimeとVolumeはそれぞれ簡易ミキサーを備えていて、GBの影響を受けてない音(ドライ)をどれだけ出力するかを決めることが出来ます。ゲージが最大の時は、GBの影響を受けた音の割合が100%、つまり元の音は全く流れません。
タイムに使うと原音と加工音が同時に流れるのでなかなか難しいですが、なんか弄れるディレイだと思えばそのうち上手く使えそうな気がしています。
一方でボリュームミキサーは素人目に見ても結構使い勝手が良いです。
このツマミ自体にオートメーションを書くことで、サイドチェインの効き具合を微調整するといった、GBのプリセット切り替えでは実現しづらい滑らかな変化を与えることが出来ます。
アタック、リリース、テンション
ボリュームについてる奴ら。アタックとリリースはADSRのアレです。ボリュームが急激に切り替わる際、その切り替わりを多少緩やかにしてくれます。
これがゼロの状態でHoldグラフを書くととんでもねえブツブツ音が入ります。
テンションは、ナナメ線の影響を強くしたり弱めたりする効果があります。例えば以下のようなボリュームグラフを書きます。
これの状態でテンションを上げると、音がより長時間、大きい状態を保ちます(最終的にはゼロになります)。以下のようなグラフを書いたのと似た動作になります。
テンションを下げるとその逆で、早く音が小さくなり、その状態を長時間保ちます(最終的にはゼロになります)。
ちょっと上手く使う方法がわからないです。最初からそういうグラフ書けばいいじゃんと思いますが、オートメーションは書きやすそうです。
HOLDボタン
これが有効になっている間、GBは最初に1小節記録した後それを永遠に鳴らし続けます。
DTMだとあんま用途ない気がするのでライブパフォーマンス向けの機能かなと感じます。最初に1小節分何かを鳴らした後それに対して延々と違うエフェクトをかけて回すことが出来ます。
DTMで同じことをやる場合、音をチョップするかMIDIコピペしたほうが早いです。
スナップとかステップエディットとか
グラフの横にさりげなくメニューが配置してあります。(クリックで拡大)
ここからスナップポイントや、各種エディット設定が行えます。
ステップエディットは、マウスでドラッグすることでスナップポイントに応じてグラフの点を作りまくる機能です。
スナップを設定していない場合は大量のポイントを作ることで疑似的な曲線も作れます。
この例では途中までは1/8にスナップ、その後スナップ解除で曲線を描いています。
スライドを有効にすると、グラフの点を動かすときに以降の点をまとめて動かすことが出来ます。
スロットを切り替える二つの方法
オートメーション
オートメーションで切り替える場合、スロットを右クリックして copy valueしてオートメーションに貼り付けすることになります。
キー入力切替
恐らくライブパフォーマンス向け機能です。MIDI入力のキーにスロットが対応してるので、パッドなどでポチポチ押すことを想定されている気がします。
C2~B4までがボリュームスロット、以降がタイムスロットに対応しています。
さいごに
GBはプリセットに楽しいエフェクトがいっぱい入っています。プリセットポチポチで十分楽しいのですが、動作原理が気になったので勉強してみました。
プリセットの中だと特にVinyl OFFとかはにぶち込みやすいと思います。Vinyl off、on、fadeなどをGBだけでやってみたサンプルを最後に置いておきます。